翌朝、サトシがいつものように早く目を覚ましてみると、
寺内のイチョウなどが一晩の間に葉を落としたので、
庭は黄金(きん)を敷いたように明るい。
塔の屋根には霜が降りているせいだろう。
まだうすい朝日に、輪の装飾がまばゆく光っている。
サトシ君は、戸を開けた縁に立って、深く息をすいこんだ。 ほとんど、忘れようとしていたある感覚が、再びサトシに帰ってきたのはこの時である。 サトシは慌てて鼻へ手をやった。 手にさわるものは、昨夜の短い鼻ではない。 上唇の上からアゴの下まで、15,18センチ以上も伸びている、昔の長い鼻である。 サトシは鼻が一夜の間に、また元通り長くなったのを知った。 そうしてそれと同時に、鼻が短くなった時と同じような、 晴ればれした気持ちが、どこからともなく帰ってくるのを感じた。 −−−「こうなれば、もう誰も笑う者はいないに違いない。」 サトシは心の中でこう自分にささやいた。 長い鼻を明け方の秋風にぶらつかせながら。 |