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外へ出かける



 ところが、ある年の秋、サトシの用をかねて、京へ上った弟子の僧が、 知り合いの医者から鼻を短くする方法を教わってきた。 その医者というのは、もと震旦(しんたん)から渡って来た男で、 その時は長楽寺につかえる僧になっていたのである。
 サトシは、いつものように、鼻などは気にしないというフリをして、 わざとその方法もすぐにやってみようとは言わずにいた。 そうして一方では、軽い口調で、食事の度に、弟子の手間をかけるのが、 心苦しいというような事を言った。 内心ではもちろん弟子の僧が、自分を説得して、この方法を試させるのを待っていたのである。 弟子の僧にも、サトシのこの策略が分からないはずはない。しかしそれに対する反感よりは、サトシのそういう策略をとる心もちのほうが、 より強くこの弟子の僧の同情を動かしたのだろう。 弟子の僧は、サトシの予想通り、強く、この方法を試してみる事を勧めだした。 そうして、サトシ自身もまた、その予想通り、最後にはこの熱心な誘いに乗ることにした。


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