BGMはMid Soundさんよりお借りしています。





鼻



 しばらく踏んでいると、やがて、粟粒(あわつぶ)のようなものが鼻へ出来はじめた。 例えれば毛をむしった小鳥をそのまま丸焼きにしたような形である。 弟子の僧はこれを見ると、足を止めて独り言のようにこう言った。
 −−−「これを毛抜きで抜けと言っていた。」
 サトシは、不満げに頬をふくらまし、黙って弟子の僧のするように任せておいた。 もちろん弟子の僧の親切がわからない訳ではない。 それは分かっていても、自分の鼻をまるで物のように扱うのが不愉快に感じたからである。 サトシは、信用しない医者の手術を受ける患者のような顔をして、 しぶしぶ弟子の僧が鼻の毛穴から毛抜きで脂をとるのを眺めていた。 脂は、鳥の羽の茎のような形をして、12ミリくらいの長さにぬけるのである。
 やがてこれが一通り済むと、弟子の僧は、ほっと一息ついたような顔をして、
 −−−「もう一度、これを茹でればいい。」
 と言った。
 サトシはやはり、シワをよせたまま不服そうな顔をして、弟子の僧の言いなりになっていた。



次へ


戻る

リンクの集合