BGMはMusic with myuuさんよりお借りしています。





外へ出かける



 さて二度目に茹でた鼻を出してみると、なるほど、いつになく短くなっている。 これではそこら辺の鍵鼻とさほど変わらない。 サトシはその短くなった鼻を撫でながら、弟子の僧の出してくれる鏡を、 きまりが悪そうにおずおず覗いてみた。
 鼻は・・・あのアゴの下まで伸びていた鼻は、 ほとんど嘘のように萎縮して、今はわずかに上唇の上で勢い無くその姿を保っている。 所々まだらに赤くなっているのは、恐らく踏まれたときの痕(あと)であろう。 こうなれば、もう誰も笑うものはいないに違いない。 −−−鏡の中にあるサトシの顔は、 鏡の外にあるサトシの顔を見て、満足そうにまばたきをした。
 しかし、その日はまだ一日、鼻がまた長くなりはしないかという不安があった。 そこでサトシは経を読むときにも、食事をするときにも、 暇さえあれば手を出して、そっと鼻の先にさわって見た。 だが、鼻は行儀良く唇の上におさまっているだけで、 格別それより下へぶら下がってくる気配もない。それから一晩寝て、あくる日早く眼が覚めるとサトシはまず、 最初に、自分の鼻を撫でて見た。 鼻は依然として短い。 サトシはそこで、いつにもなく、 法華経(ほけっきょう)書写の功を積んだ時のような、のびのびした気分になった。


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