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BGMはMusic with myuuさんよりお借りしています。





走れサトシ



 目が覚めたのは翌日の薄明の頃である。サトシは跳ね起き、寝過ごしたか、いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。 今日はぜひとも、あの王に、人の信実の存するところを見せてやろう。そうして笑ってはり付けの台に上ってやる。サトシは、ゆうゆうと身支度を始めた。 雨も、ある程度小降りになっている様子である。身支度は出来た。さて、サトシは、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、矢のごとく走り出た。
 私は、今宵、殺される。殺されるために走るのだ。身代わりの友を救うために走るのだ。王の曲がった悪知恵を打ち破るために走るのだ。走らなければならぬ。 そうして、私は殺される。若いときから名誉を守れ。さらば、ふるさと。若いサトシは、つらかった。幾度か、立ち止まりそうになった。えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。 村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、隣村に着いた頃には、雨も止み、日は高く昇って、そろそろ暑くなってきた。サトシは額の汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、 もうすでに故郷への未練は無い。妹たちは、きっと良い夫婦になるだろう。私には、いま、なんの気がかりも無いはずだ。まっすぐに王城に行き着けば、それでいいのだ。 そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気(のんき)さを取り戻し、好きな小歌をいい声で歌いだした。ぶらぶら歩いて8キロ行き12キロ行き、 そろそろ道の中盤に到達した頃、降って湧いた災難、サトシの足は、ぱたりと、止まった。見たまえ、前方の川を。昨日の豪雨で山の水源地は氾濫し、 とどまることなく濁流は下流に集まり、勢い良く一気に橋を破壊し、どうどうと響きを上げる激流が、木っ端微塵(こっぱみじん)に橋げたを跳ね飛ばしていた。


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